上機嫌のマリー・ルイーズの前に進み出て、アンリは優雅にお辞儀をした。
恭しくその手を取り、三拍子のリズムで軽くステップを踏む。ドレスの裾の代わりに、振袖の長い袂が翻った。
「ほら、少女の頃と変わらない。そうでしょう?」
羽根のように軽いターンを決め、パートナーを夫のもとへと送り届ける。
最愛の妻を一瞬で攫われた夫は、しかし、花嫁の父から花嫁を託されるバージンロードの先の新郎のように幸せそうに微笑んでいた。
田中氏のその様子に、アンリは少々でなく嫉妬した。そして、ちょっと意地悪な気持ちになる。
そう。ほんのちょっと。
「『火のないところに煙は立たない』でしたか?当たらずとも遠からず、というような意味は」
「あら。何を言い出すつもりなの、アンリ?」
無邪気に問い返すマリー・ルイーズと、彼女の肩を抱く若く美しい東洋人の夫。絵のような眺めだ、とアンリは思う。
妻の肌は、さながらピンク・パールの光沢を持ち、夫の方は少し沈んだイエロー・パール・・・・。
「私とあなたの昔の因縁について、まことしやかに言われていることに関しての弁明を。モントルーで御家族が揃って過ごされるのなら、どこかでお耳に入らないとも限らない。あなたの最愛の御主人に余計な気を回させないためにも、ね」
マリー・ルイーズは、アンリの含みのある言い方を聞いて、その綺麗な眉をちょっとひそめた。
「事実とは違う噂があるの?私たちのことで?」
心配そうに小首をかしげるマリー・ルイーズに、アンリは優しく微笑み返した。
「あなたを非難するような内容じゃありませんよ。いつものように、私の不行跡に纏わる何通りかの憶測の筋書きの一つです。その台本の登場人物に、たまたまあなたが役を割り振られているようなのでね」
「どんな役?」
「その昔、私の求婚を断ったという役ですよ」
えっ・・・と思わず息を飲んだのは、田中氏である。
ところがその妻は、夫が更に驚いたことには、失笑したのだった。
「それなら本当に『火のないところに煙は立たない』だわ。本当のことだもの」
「マリー!」
ますます狼狽する夫を悪戯っぽく見上げて、マリー・ルイーズは肩を竦める。
そして、アンリには花のような笑みを見せた。
それは共犯者の笑みだ。
(かわいいでしょう?この人)
(本当に。そしてあなたも相変わらず素敵だ)
(ありがとう)
二人は言葉を交わさずにこれだけのやりとりをして、満足そうに微笑み合うのだった。
腐母(大人なら母でなくてもよし)の会 |
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Date:2008/05/15
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Thema:自作BL連載小説
Janre:小説・文学